with you
 翌日、学校に行く途中、前にゆっくりと歩いている男の人がいた。


 長身で、すらっとしている。


 依田先輩だ。


 昨日のお礼を言わなきゃ。


 そう思ったけど、うまく足が動かない。


 先輩は声をかけたら笑顔で答えてくれるとはわかっていたけど、そんなほんの少しの勇気が私にはなかったのだ。


 そんなことで迷っていると、私の傍を女の人が駆け抜けていく。


「依田君、おはよう」


 私の前を歩いていた依田先輩が振り返り、一瞬、目が合った。


 彼は私から目を逸らすと、話しかけてきた女の人と笑顔で言葉を交わしていた。


 昨日たすけてもらったのに、後をつけるような真似をして、嫌な子だと思ったかな。


 でも、話しかけて、うっとおしくがられるよりはずっといいような気がした。


「おはよう」


 振り返ると、愛理が立っていた。


 私はできるだけ笑顔で返す。
< 28 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop