with you
「今日はいいや。また今度ね」


 彼女は少し悲しそうに笑う。だが、彼女に気遣う余裕もなく、頭を下げると彼女と別れた。


 家へ通じる曲がり角を曲がったとき、青い傘とともに見慣れた姿が現れる。彼の髪の毛には無数の水滴がついていた。


「先輩」


「びっくりした」



 彼は目を丸めると、肩を震わせ笑い出す。


「稜の家からだとこっちを通ったほうが早いからね」


「そうですね。じゃ、また明日」


 歩き出そうとした私を先輩が呼び止めた。


「家まで送るよ」


 昨日までなら嬉しい言葉だった。だが、今はその優しさが苦しい。
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