with you
 わたしは彼のことを特別に思っていたのだ。


 一方的に好きになって傷つくのは間違っている。だが、今は笑う強さがなかった。ただ逃げることしかできなかった。


「わたし、今から寄るところがあるんです。だからここで」


「そっか。風邪に濡れないようにね」


 私は彼とは目を合わせずに、その言葉に精一杯の笑顔を浮かべた。


 背を向けて歩いていく。実際そんなことがあるわけないのに、彼の視線を背中に感じていた気がした。


 頬に伝う涙を感じながら唇をかみ締めていた。
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