珈琲と孤独

忘却

人々は、何かから解放された様な顔をして自宅へ帰っていく。
何から解放されたワケでもなく、何からも縛られているわけでもなく。
「ね、友人として共に時を過ごさない?」
キミに視線を向けて、笑顔で問う。キミは鞄に教科書等をしまいこむ手を止めた。
「プロポーズみたいだ。─そもそも、友人とは言われてなるものなのか?」
キミは微笑む。特に愛らしくもなく、特に魅力的でないとキミは思っている。
「それもそうね。─じゃ、貴方に友人のように接してもいいかしら」
「いいんじゃないか。わからないね」
──孤独を忘れられるだろうか。
キミも思ったはずだ。一人、心許せる相手がいることで、抜け出せやしないだろうが、忘れることくらいならば─
二人、孤独が怖かったのだ。恐れていた。
だからだろう、こんなにも早く心許してしまうのは。
「ありがとう」
そして二人は歓喜するわけでもなく、別れ自らの生活の中へ戻る。
ただ少し、明日が楽しみになった。それだけだろう?
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