乾柴烈火 Volatile affections
本当のことを言えば、

私にはこれ以降の詳細な記憶がない。

はじめて現実に向き合って

挫折をしたからだ。

私はこの後、

お客さんの紹介でもう一回就職をする。

香港で知らない人はいないだろう

日系の高級スーパーの

マーチャンダイサーとして。

それはもう、できなかった。

というよりは、

何が何だか分からない世界だった。

あっさりクビになるのだが、

1つだけ、

今でも忘れられない言葉を

私を雇用してくれた笠原さんから頂いた。

笠原さんは

本当に仕事のプロで厳しくて怖かった。

その時私は

とにかく彼から怒鳴られていて

彼は真っ赤になって怒りながら

私にこう言った。

「あんたは、くだらないプライドだけで出来た女だ。自分を愛さないから、そんな事では、今後何をしたって駄目だ。」


的を射ていたその発言は

今でも頭から離れない。


この情けない私と比べて

他のホステス達の逞しさは、

ものすごかった。

お水を卒業した彩は

地に足をつけて

そのまま香港に残り続け

恵理ちゃんも

上海に留学して後

香港に戻って就職をして今も尚

香港に住んでいるのだから。

元々お店は、

現地採用者の登竜門のような場所だ。

過去何十人もの女性が

ここでホステスをして

就職活動をして

採用を勝ち取り卒業をして

香港の中で生きていく。  


ただ一人、

私だけが宙に浮かんだまま

地に足をつけてはいなかった。


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