乾柴烈火 Volatile affections
じゃあ私は、

本当は何もしなければ良かったの?

やっぱりそれは違うと思う。

只、このままの私で

私を終わらせるわけにはいかない。

私の考えがここまで至った時

見えない羽が肩胛骨から

生えてきた気がした。

これまで真剣に訴えてみたところで

苦笑いされただけだった

私特有のこの感覚は、

本当に私にだけしか分からないもの

なのかもしれないし、

そうでないのかもしれない。

だけど私は確かに、

香港へ降りた時

乗船した時

水商売をはじめた時

日本に帰った時

その後の私が動く時には

いつでも背中に羽のような

何かを感じたのだ。

たった今感じたこの羽が

どこに向かって

何をするための羽なのか

まだ分からない。

まだ分からなくても、

その内に分かるだろう。  


今日からの私は

もう何も持っていないのだから

尚のこと焦る必要はどこにもない。

かれこれ30年も、

うんざりするような私に

私は付き合わされているのだから

私を何とかする方法くらいは知っている。


最悪でも

香港でお水の仕事くらいはできるだろう。

今となってはコンタクトレンズが手放せない。

クリアな視界で

お水の世界を覗いてみるのも悪くはなかった。

善し悪しはともかく

こうして私は傷ついた分だけ

打たれ強くなって、

どんどん歪になっていく。

解雇にも失恋にもとうに慣れた

傷だらけの情けない私は

少なくとも香港を去ったあの頃より

ずっと強くなっている。



それは、決して悪い気分だけではなかった。

そんな事を考えていたら

いつの間にかアパートに到着していて、

とりあえず何日の飛行機を押さえようか、

そう香港への思いを馳せながら

自宅への扉を開けた。




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