乾柴烈火 Volatile affections
「パーサーってご存じです?皆さんも、国外に出られるときには、CIQ、税関に出入国審査それから検疫を通られますよね?その国へ船が到着するためには、色々な手続きが必要で、それは行く国によって異なります。渡航に必要な書類を作成したり、一人一人の乗客がちゃんと他の国にも入国できるビザを持っているかいないかを確認したり、入国・出国のはんこ押しを手伝ったり、乗客名簿作ったりっていうまぁ、事務とグランドホステスを足して2で割ったような感じのお仕事ですよ。」

「そういえば、確かに見た目がフライトアテンダントっぽいよね。」

「えー、そうですかぁ?そんな風におっしゃって頂いて、ありがとうございます。」

「でも、船で働くって、めずらしい体験だよね。あんまり聞いた事ないよ。」

「あまり居ないと思いますよ、きつい仕事なので。乗船中は休暇もないから、8ヶ月間毎日仕事しなきゃいけないし。あの生活を例えるなら、刑務所で懲役を受けているような感じかな?」

「それは、大変そうだね。ねぇ、そういう仕事に就くためにやっぱり、海外の大学出たりしているの?」

「私は専門卒なんです。大学に入学する学力なんて、ないですよ。英語だって元々は苦手だったし。オーストラリアで語学留学を1年した後、このまま日本に帰ってしまったら、英語はものにできないだろうと思って、そのまま終わりにしたくなくて、就職活動をして見つかった仕事が、こういった業界でたまたま配属先が香港だっただけです。」

「それにしても、若いのに見上げた根性だよね。」

「そんな事ないですよ。ここには他にもバイリンガルの方いらっしゃいますよ。昼間お仕事をされている方もいらっしゃいますし。私より広東語が上手な人も多いですよ。」

「それで今はどうしてここで働いているの?」

「実はここで働きながら就職活動中なの。」

「でもさ、日本で普通に働くっていう選択史もあるでしょう?やっぱり日本の社会が嫌なの?」

「働いた事がないから、分からないですね。ただ、私にとって香港こそが運命だし、大好きなので。私が日本に住んで平凡なOL生活を送るっていうのは向いていないと思います。」

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