乾柴烈火 Volatile affections
約1年ぶりに浩賢の家族に会って、

フェリーでマカオへ向かう。

浩賢のお母さんが

フェリーの中で、

『そういえば、志保の漢字名はどう書くの?』

と聞いてきた時、

浩賢が豪快に大爆笑する中

私は怨めしい顔で

隣の彼を睨んだ。

中国人とつながりのある

日本人であれば必ず

漢字名を教えて?

と聞かれたことがあるはず。

もちろん私も聞かれる事は多い。

その都度書いてあげるのだが、

普通語の中国人も、

広東語ができるマレーシア華僑も、

反応は至って普通であるのに対して、

香港人だけ、

必ずと言っていいほど私の名前を見て、

一度その発音を呟きながら確かめて、

一瞬固まる。

それがずっと不思議で

仕方なかった。

浩賢が笑いながら

広東語で説明を始める。

「志保の名前は、小心至宝と同じ発音だよ。」

小心至宝とは

香港のバイアグラ的なものらしく

大阪で例えるなら

‘551の蓬莱’

みたいな定番商品として

頻繁にコマーシャルに出る。

これを私に教えてくれたのも

他ならぬ浩賢だ。

小心至宝のCMで流れている

歌まで唄って、

しばらくの間は、

チェックインカウンターで

会うごとに唄うので

私を腹の底からむかつかせた。

それ以降

香港人に自分の漢字名を聞かれたら

ごまかすよう試みたが

大抵浩賢が割って入っては

面白がってばらすので、

その都度私を激怒させた。


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