乾柴烈火 Volatile affections
幸子さんが

お金持ちとの恋愛

について定義をする。

「いい?本当のお金持ちは、全てをあなたに与えてくれるの。そうね、仮に付き合ったとしたら、彼はあなたに‘僕のためにより美しくなって’と言ってエステのコースごとプレゼントしてくれる。それが本当のお金持ちの世界よ。あなたは何も心配せず、その中できれいになっていけばいい。何もかも全て与えてくれるのだから。」

「何だか凄いですね。そんなものですか?」

「そうよ。羨ましい?」

「羨ましいです。持つに越した事はないですよね?ここは格差社会で、所詮が中国の一部ですから。人間は全然平等なんかじゃないですし。」

「だったら志保もこっちの世界に来なさいよ。セレブの生活は幸せよ。」

「行こうと思って簡単に行ける世界だったら、誰でも行きますよ。梢さんのような選ばれた人だけが居ていい世界ですよ。」

「そうかしら?」

「そうだと思いますよ。」

私がこうして梢さんと話している間、

彩は司さんと話をしているようで、

さっきまでの私と同じように

尋問を受けているようだった。

梢さんは更に言葉を続ける。

「それで?ドラッグやってんの?」

「やりませんよ。」

「嘘でしょ?」

「本当です。強いて言うならガンジャは吸ったことがあります。」

「えー、それ人生半分損して生きるようなものよ。いい?セレブになればいくらでも上質なものが手に入るわ。覚えておきなさい?本当に上質なコカインはね、腕に一滴入るだけで、天国へ行くような感じがするのよ。腕にちょっとだけ、ほんの一滴入っただけで、全身に染みわたるのよ。」

そう言って

腕の静脈を触る

梢さんの顔は

うっとりしていて

今、本当にその世界に居る

ようにしか見えなかった。


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