乾柴烈火 Volatile affections
『とりあえずキャビンに荷物を入れて整理をしてきて。』

そう人事担当に言われた私は、

自分のキャビンに入って、

思わず泣いてしまった。

キャビンには誰もいなくて、

私のベッドスペースだろうと思われる場所に

とにかくものがあふれていて、

さっきランドリーで受け取ったシーツで

ベッドメイキングすることは不可能。

私のロッカーだろうと思われる場所も

荷物でいっぱいだった。

床にはたくさんの

ひまわりの種が落ちていた。

かつて見た事のない汚さに

キャビンの狭さと暗さに

びっくりしてしまったのだ。

休憩で帰ってきたルームメイトが

立ち尽くして泣いている私に驚き

全て片づけてくれて、

丁寧に色々と案内してくれたから

その後すぐ泣きやんだけど。


乗船1週間でAlexに、

『中途半端に伸びた髪の毛を何とかしろ』

と言われ無理やり連れて行かれた

船内の美容室。

写真を見せて

イメージを伝えているのに、

何をどう見たらそうなるのか、

戦後のわかめちゃんカットにされた

私は初日よりも本気で泣いた。

『髪はね、髪だけは本当に女の命なのよ』

と言いながら、

食堂でわんわん泣き喚く私を

止めることのできる人間など

どこにもいなかった。


食堂のご飯は本当に不味かった。

油の中にお肉が浮いている料理。

Crew messのご飯は、

全体的に臭いそのものが変だった。

そのご飯が乗船してすぐの頃

食べられなくて、

仕事中に倒れた私に、

「ここで生きたいと思うなら、飯を食え。」

そう言ったのはAlexで、

彼は正しかった。

私は根性で食べ続け

いつの間にか10キロ太ったし

キャビンの消毒がきつすぎる

わさびの匂いがするシャワーを

浴び続けたおかげで、

私の自慢だった、

きれいだった肌は吹き出物だらけになった。

「もう1回乗れと言われても、絶対に無理。」

と一人呟いて、

スーパースターレオへ続くアプローチへと

足を進めた。




















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