乾柴烈火 Volatile affections
どれくらい経ったのだろうか、

1人の男がいつの間にか

私の近くにいて、

中国語で

何かを私に話しかけてきた。

私は、

広東語という言葉が

存在する事さえ、

この時点ではまだ知らなかった。

「中国語はわかりませんよ」

そう英語で切り返す私に彼は

「君は、神を信じる?」

と流暢な英語で聞いてきた。

こんな夜中に宗教の勧誘?

と思っていたら

それは違っていて、

「実は、僕は先日まで刑務所に入っていたんだ。」

と言った。

本当によく考えれば、

私はすぐにでも

全力で走って

逃げるべきだったのだろう。

ところが、

疲れていて

注意力散漫だったのか、

はじめて見る世界に

感動しすぎていたのか、

目の前の彼が

中々かっこよかったからなのか

その全部が

ごっちゃになっていたのか、

ただ単純に

その話を面白い、

そう思ってしまった。


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