モノクロォムの硝子鳥

「でもっ、志堂院さんの息子さんは行方不明ってだけで、亡くなられたかどうかは……」

「勿論、代襲相続は相続人の死亡が認められなければ発生しない。だが、行方不明者が7年消息不明となれば、失踪宣言を申し立てて法的に死亡とみなす事が出来る。康造氏の息子が生きていても、死亡となっても、どちらにせよ君という存在がある以上、康造氏の兄弟に一切の遺産相続権は無い」


自分が正当な孫であるなら、康造氏の莫大な遺産が相続される――。
その内容にくらり、と眩暈を覚えた。

いくら何でも、話が大き過ぎる。
まだ10代の自分がそんな莫大な遺産を相続する立場にあるなんて。

次から次へと突き付けられる状況に、既に思考は麻痺してしまっている。
どうして良いか分からないひゆは虚ろな目を彷徨わせた。


「蓮水様。紅茶を淹れ直しましたので、お召し上がり下さい」


ふと、柔らかなテノールが頭上から聞こえ、意識を引き上げられるようにゆるゆると首を上げた。
いつの間にか側へ立っていた九鬼が優しい笑みで見つめているのに気付いて、ほんの少し正気が戻ってくる。

淹れ直して貰った紅茶から甘い香りが漂っている。
ゆっくりとそれを胸に吸い込むと不思議と不安が和らいでくるような気がして、ひゆは暖かい紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせた。


「お話は、大体分かりました。けど、私が志堂院さんの「孫」っていう証拠なんて何処にも無いです……」

「確証が無いなら初めから君をこの屋敷に連れて来たりしていない。此方もきちんと調査をして君をこの場に連れて来ている。証拠が見たいというなら、DNA鑑定でもして見せようか? 結果は分かりきっているが」


自信有り気に言う義永は、恐らく嘘は言っていないだろう。
それだけの莫大な遺産が関係するなら、慎重に調査もするだろうし、確証が無ければ自分をこの場に連れて来ていないはずだ。

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