モノクロォムの硝子鳥
それでも、有りのままを受け入れるにはどうしても無理がある。
遺産を相続する権利があると言われても、自分はどうして良いのかさっぱり分からないのだから。
「遺産相続とか……私だけじゃ判断出来ないので、一度帰って家の人と相談して来ても良いですか?」
ひゆが頼れる人間と言えば、自分を育ててくれた養母だけだ。
優しくされた記憶もあまり無く、普段も会話らしい会話もしない養母だが、自分を今まで育ててくれた事には感謝している。
今のこの状況を相談すれば、何らかの解決策を出してくれるかもしれない。
そう思って口に出した途端、義永の表情は厳しくなり、鋭い視線でひゆを見据えた。
「家に帰す事は出来ない。君は此処に居るんだ」
「帰す事は出来ない、って……何でですか!?」
身を乗り出すように立ち上がると、目の前の男に抗議する。
けれど、ひゆの態度にも動じる事無く義永は厳しい表情のまま言葉を続ける。
「最初に言った筈だ。君を養っている人物が、君自身を大切にしてるなら問題は無かった、と」
疑問に感じて引っかかっていた言葉。
養母が、何か関係あるのだろうか……。
勢いで思わず立ち上がってしまったが、気を静めて椅子に座り直す。
「私を育ててくれた人が、何か問題あるんですか……?」
「それよりも、何故君は「育ててくれた人」だなんて回りくどい言い方をするんだ?」
「……それは」
もっともらしい部分を指摘されてひゆは言い淀んでしまう。
隠していても仕方無い事だと自分に言い聞かせて顔を上げた。
「……それは、その人に「おかあさん」と呼ばないように言われたからです。これが引き取られた時の最初の約束だったので」