モノクロォムの硝子鳥
鞄の中に入れてあった小さなハンドタオルを手にした時、ふわりと柔らかな感触がひゆの髪に触れた。
思わずビクリと肩を揺らして振り向くと、男が丁寧な手つきでひゆの髪を拭っていた。
「あの、自分で……っ」
慌てて制止の声を上げるが、拭う手はそのままに男はにこりと優しい笑顔を向けてくる。
いつの間にか縮まっていた互いの距離に、更に呼吸が詰まるような錯覚を覚え、身体は警戒して強張ってしまう。
「寒そうなご様子でしたので――楽になさって下さい」
寒いと顔に出しているつもりは無かったが、男の目にはそう映っていたらしい。
雨の雫を丁寧に拭いながら、気遣う言葉を掛けてくれる。
言葉も表情も、ひゆに向けられるものはどこまでも優しい。
けれど、強張る身体は自分ではどうしようもなく、ひゆはまた唇を噛んで俯いてしまった。
不意に髪を拭っていた手が止まる。
男は空いている方の手で俯くひゆの顎に指を掛けると、そっと優しく上向かせた。
慣れない不意打ちばかりで抵抗が遅れ、まともに目の前の男と視線がぶつかってしまう。
所在なさげに揺れるひゆの瞳に映るのは、何故か少し困ったような男の表情。
「そのように強く噛んでしまっては、愛らしい唇が痛んでしまいますよ?」
噛み締めている箇所を宥めるように、ゆっくりと親指が唇をなぞってゆく。
思いがけない行為に、ひゆの瞳が大きく見開かれた。