Maidoll Factory
僕の言葉に、るちるはしばし固まったように動けなくなっていた。

そんな彼女を他所に、僕はのろのろと荷物を鞄に押し込み。

「それじゃあ…世話になったな、るちる」

簡素と言えばあまりにも簡素な挨拶だけ残し、ロッカールームを出て行こうとする。

「ち、ちょっと!」

慌てたように、るちるが僕の鞄を掴んで止めた。

「何やってるんですか先輩!」

「放せよ…だからさっき言っただろ?この店辞めるんだよ」

「何馬鹿な事言ってるんですか!?何で辞めるんですか!何かあったんですか?」

「何もないよ」

僕は肩越しにるちるの方を振り向く。

…その頬に、知らず涙が伝った。

「僕には何もないんだよ…才能も…メイドールを作る理由も動機も…僕にはおやっさんに認められるようなものは…何もないんだよ…」

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