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「……」

彼は振り返って、小さく笑った。
眠そうな目をしていた。
黙ったままの私の頭をそっと撫でて、優しい声で言う。

「ま、考えといてよ」

じゃあね、と手を振って、彼は部屋を出ていった。
小さく音を立てて閉じた扉を見つめながら、私はまだ固まったまま。
いつもの冗談といった感じではなかった。
何か、思い詰めているように見えた。
よく分からない。
なぜ突然そんなことを言い出したのか、意味が分からないけど。

私は踵を返し、彼の匂いが残るベッドで二度寝しようと、それに飛び込む。
今日の講義は午後からだから、まだ時間はたくさんあった。
意味が分からないから、考えたって仕方がない。
それより眠いから寝る。
今から仕事の彼には悪いけど。
ゆっくり寝て、今夜にでもメールをしよう。

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