non title
「もう寝よっか」
俺がそう言って、そっとハルナの髪を撫でると、消えそうな声でうんと呟いた。
なんか猫みたい。
可愛いな。
俺は資料を片付けて、枕元のライトを消した。
真っ暗になる室内。
生ぬるい呼吸を耳元に感じると、なんだか全身がむずかゆくなった。
二人で寝るには狭いこのベッドも、引っ越す時はこれよりも大きなベッドに買い替えているんだろうな。
「ユウ」
「ん?」
「キスしないの?」
段々と暗闇に目が慣れてきて、その白い肌に際立つ大きな瞳が、こっちに向けられていることに気が付いた。
寝る直前になって、こんな事を言ってくるなんて。
俺の心臓がゆるやかに撥ね、その瞳に縫い付けられる。
ざっと思い返せば、今日は一度もキスをしていない。ただいまのキスは不発だったし。
俺が顔を近付けると、とても自然な流れでハルナは目を閉じた。
ぽってりしていて、特徴的なハルナの唇。その唇にそっと触れる。
その瞬間、呼吸を止めると何も聞こえなくなる。
時計の針の音も、衣擦れの音も聞こえない。俺の心臓だけが、柔らかい痛みを引き起こす。
胸が焦がれそうに切ない。