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しばらくすると、扉が開いた。
その向こうには、風呂上がりらしきハルナの姿。
濡れた髪をタオルで挟みながら、俺の顔を見るなり、しかめっ面をする。
「お風呂上がり、色っぽいね」
そう言った俺の顔は、相当にやついていたのかもしれない。
無言のまま強く扉を閉められ、ガチャンと鍵の掛かる音もした。
「ちょ、柏木さん開けてよー」
薄暗い通路にぽつんと取り残された俺。
消えかかった蛍光灯に、虫達が群がっていた。
俺の情けない声がしばらく響いた後、ゆっくりと扉が開いた。
「近所迷惑」
「ごめんごめん」
「何それ、ご飯?」
「と、お菓子と…アイス溶けてるかも」
「これハルナの好きなやつだ」
ありがと、と小さく笑って、俺の荷物を奪いキッチンに向かうハルナ。
何より食料が大事らしい。
仕事でぐったりの俺に「お疲れさま」の一言もない。まぁそこが彼女らしさでもあるのだけれど。
だって俺はそんな一言よりも「ありがと」のあの笑顔が見られただけで満足なのだから。
「これ何?」
「焼肉弁当、社長のおすすめ」
「美味しそう。食べて良い?」
「うん」