non title
「ありがとね」
そう言って、扉を締めようとすると。
ハルナは、それを防いだ。
また俺の体を見つめて、なんとも哀しそうな目をして言った。
「ユウ、痩せたね」
なんでそんな目をするんだろう。
俺は心臓を鷲掴みにされた気分だ。うまく呼吸が出来なくなって、全身の血が凍り付くみたいで。
ハルナは俯いた。
そして、俺の胸にそっと抱き付いてきた。
俺の髪から垂れた水滴が、ハルナの肩に落ちて弾ける。
「苦しくないの?」
妙に静かで、その声はこだまする。
視界がぼやけていくのが分かった。瞼の裏が熱くなる。
強がってみたところで、俺の考えていることなんて全てお見通しなんだ。
こんな時だけ鋭い。
やっぱり、俺はこの子じゃなきゃダメなんだ。
崩れ落ちた俺の頭を撫でながら、優しい声で言ってくれる。
俺の一番欲しい言葉。
それをハルナが言ってくれることに意味があるんだ。
「一緒に暮らし始めたら…、毎日おかえりって言ってあげるね」
俺は彼女に何もしてやれない。
与えられてばかりで、俺は何をしてやれるんだろう?
段々大きくなる彼女との距離。
この距離を早く埋めたい。
俺はこの子と、二人並んで歩きたいのだから。