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昨夜、ユウが泣いた。
痩せた白い体。濡れた長い黒髪がひんやりと熱を奪っていく。
肩を震わして、荒い呼吸を繰り返す。過呼吸になるんではと心配するくらい、異常な呼吸音を奏でていた。

ユウって、こんなに頼りなかったっけ。

ハルナは嫌に冷静だった。
泣いているユウの頭を抱き抱えながら、冷めきっている自分の思考に嫌気がさした。

そんなに辛いなら、辞めちゃえば?

何度も何度も脳裏をよぎった台詞。
しかし言いだせなかったのは、ユウが本当に役者としての才能がある人だったからだ。
数回、彼の出演している作品を見たことがある。
言葉にならなかった。
確かにユウを見る目は変わった。それくらいの演技をする人だった。
今の若い子達は、このユウの華やかなルックスにしか興味はないのかもしれないけれど。
ユウは役者としての存在感が、確かにあるのだ。
普段生活していて、それは痛いくらいに分かる。
役の為に、普段の生活に支障をきたすのがユウだった。
取り憑かれたような病的な演技をする役者には、よくある事だと言う。
ユウはたまに、ハルナを抱く時ですら、別人のような顔をするのだ。

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