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02、悠々
02、悠々
「同棲しよっか」
かなりの勇気を振り絞った。
考えて、考え抜いた末の、誰の為にもならない選択だった。
朝方のこの静けさが心地悪い。
一際目立つ俺のスニーカー。明らかに、他の女物とはサイズもデザインも異なる。
そのスニーカーを履いて、振り返った。
彼女は何も言わない。
まっすぐな目で俺を見据える。
大きくて綺麗なその目は、俺を責めるみたいで、心臓がおかしな撥ね方をする。
「何言ってんの?」
「頭おかしいんじゃないの?」
いつもみたいに、そんな返事が返ってくるかと身構える必要はなかったみたいだ。
いや、むしろそう言って笑われた方が、俺の精神的にも優しかったのかもしれない。
可能か、不可能か。
それは俺達の希望だけではどうにもならないような、物理的な障害。
彼女もそれを知っている。
変わっているけど、頭の良い子だ。
そんなことは三年も付き合ってきた俺が、一番よく知っている。
「ま、考えといてよ」
それ以上、彼女と正面から向き合えなかった。
そう言うのがやっとで、俺は彼女の家を後にする。