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ビルの狭間からさす朝日が眩しかった。
その瞬間、俺は現実に引き戻される。
アパートの前には、真っ白なセダンが停まっていた。
その運転席に座る女性が、俺に向かって手を振ってきた。俺はその助手席に乗り込む。
「おはようございます」
「おはよー」
「スタバ寄ります?」
「お願いします」
この人は、椎名さん。
背が低くて童顔だけど、こう見えて俺より三つも年上。事務所の車を乗りこなす。
今日は、ドラマの撮影だ。
こんな朝っぱらから、どうせ深夜まで付き合わされるに違いない。
覚悟は出来ていた。
そしてまたしばらく、彼女とは会えなくなるだろうから。
これくらいがちょうど良い。
彼女にも俺にも、今は時間が必要だ。