カウントダウン
「ええ」
 アリイシャは浩に引かれる儘、小走りになる。
 空のシャンパンの瓶が何処からともなく飛来し、二人の足元で割れた。道端に頭部が血塗れになったパンクルックの酔漢が、座り込んでいる。
「アリイシャ」
「何?」
 二人は祝祭と混沌が交錯する凱旋門界隈を、駈けていく。
「今迄の事は水に流そう」
「うん」
 男女は歩調を止めた。
 浩は護衛みたく辺りに注意を払いながら、アリイシャに尋ねた。
「どうして此処へ?」
「悲しかったから。貴方がパリへ行ったと佐川さんから聴いて、パリへ来たの。此処へは、さみしかったから来たの」
「そうか。僕も同じだ」
「こんな私を本当に赦してくれる?」
 浩は一息した。
「過ちは人の常さ」
 自信に満ちた顔色で、吐いた。
「ふふ」
 アリイシャは大人っぽく微笑み、小柄な浩に寄添った。
 凱旋門周円は、喧騒を包荒(ほうこう)している。人類の祭典の中を浩とアリイシャは、優美なる感覚に包含されながら、歩月していった。
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