プリシラ


 ある放課後、僕が忘れ物を取りに教室に戻るとたまたま先生がいた。

「どうしたの? 仁?」

「ああ、忘れ物を取りに……じゃあ、先生、さよなら」


 僕は用事を終えるとすぐに教室を出ようとした。

 なんとなく先生の視線を感じたからできるだけ早く教室を出ようと思ったんだ。


「ちょっと待って。そんなに急いで帰ることないじゃない? ねえ、ちょっと先生の仕事、手伝ってよ」


 結局僕は上手く断れずに、夕暮れの教室でこうして先生と二人きりでプリントを閉じたりしている。


 その間も先生は僕に話しかけてきた。


 顔を上げずにプリントをホッチキスでカチカチ閉じながら適当に返事をしているうちに、先生がふいに黙った。

 僕は顔をあげた。


 先生と目が合う。


 先生が僕のそばについと寄って来た。


「仁はキスしたことあるの?」


 唐突に、それまでとは全く違う種類の質問をしてきた。


 先生の目はキラキラしていてなんだか木の実を齧る動物みたいだ。



 かわいいけどあの歯は硬い木の実を割る事が出来る。




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