プリシラ
 僕は相変わらず彼女の言いなりで、ポカンと口を開けている。

 気のせいか目の前の勝気そうな顔がさっきよりも赤くなり、瞳がキラキラしているように見えた。


 ゆっくりと僕の唇をシェルピンクに埋めていく筆先が気持ちいい。

 僕はほんの少し笑ってみせた。

 なんとなくそうしたほうがいいような気がして。

 なんとなくそうしたほうが彼女が喜ぶような気がして。


 案の定、彼女の目は激しく左右に動き始める。


 僕の唇は完全にピンクに染まった。

 コクンという詰まる音が彼女の喉もとから漏れ出す。

 唾を飲み込んでいるんだろう。


 汗ばんだ手の平が僕の頬に乗せられ、上下にゆっくりと擦られた。

 僕はその手を払いのける事はせずに黙っていた。

 どうして彼女が興奮し、瞳を濡らしているのかはわからなかったけど、じっとしていた。

 彼女の手は僕の頬を何度も撫で、なんだか気持ちいいなと思って僕が目を閉じると、ゆっくりと指先から離そうとした。


 次の瞬間、僕はおかしな事をしてしまったんだ。



 
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