ウォーターマン
 この画期的な制度により、犯罪件数は激減した。政府転覆を企図(きと)する共産主義者、無政府主義者、言論弾圧者、ヤクザ達の地下組織も次第に摘発(てきはつ)、壊滅(かいめつ)されていった。磨生内閣による一連の大改革が実現された要因は、公安法の施行によって旧来の学会、マスコミを支配していた共産主義者、無政府主義者、言論弾圧者が一掃されたことだった。
 磨生内閣は、彼らを自由民主主義を騙(かた)るペテン師と批難(ひなん)し、国外追放か公安法違反の罪で懲役十年の刑に処した。共産主義者、言論弾圧者を受け入れる国はあったものの、無政府主義者を入国させる国は無く、アナーキスト達は入獄せざるを得なかったのである。
 高山は犯罪防止官制度が発足してから、人殺しを途絶(とぜつ)してしまった。久坂に直談判して、 
「一体私は、これからどうしたらよいのか」
 と訴えてみたが、
「これからの君の処遇(しょぐう)は、今国防大臣、宰政も交えて考慮中だ。兎に角今は、行動を自粛(じしゅく)してくれ」
 という口答(こうとう)しかもらえなかった。取り敢えず給料こそでているが、待命(たいめい)というかたちなのである。
(俺はこれからどうなる)
 という高山の惑(わく)志(し)は募(つの)るばかりであった。そんな或る日、高山は久坂に呼び出され、
 宰政直属の諜報員になるよう要請を受けた。高山は磨生と対面を許され、直々に特命諜報員となるよう依願(いがん)されたのである。
 政府に対する不信感が芽生(めば)えていた高山であったが、国民的英雄と目されている磨生宰政に手ずから要望されては断るわけにはいかなかった。磨生は高山に慇懃(いんぎん)に頭礼し、
「君の身を挺(てい)しての働きには頭が下がる思いだ。今後は私の手足となって共に日本の為、アジアの為、世界の為に尽くしてくれ給え」 
 と明言してくれた。高山は元来忠誠心の強い壮士(そうし)である。感激に身を震(ふる)わせつつ、特命諜報員への任命を受諾(じゅだく)したのであった。 
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