ウォーターマン
 北朝鮮と中国は、今日共産主義者達の最後の砦となっている。取り分け北朝鮮の金正大将軍は、他国にとって、なにをしでかすか分からない不気味(ぶきみ)な凶(きょう)星(せい)であった。
 天下の警察を自認するアメリカは、カストロの死没を契機に崩壊したキューバ共産主義政権の如く、北朝鮮の労働党政権が倒壊(とうかい)することを希望していた。北朝鮮のバックには中国がついており、超大国アメリカも、手を出しかねていたのである。
 一方、日米安保条約は放棄(ほうき)したものの、新しく日米対等の立場に立った日米同盟条約を締結していた磨生は、アジア連合と云う構想を推進するためには、中国と北朝鮮をなんとかせねばならなかった。磨生は大規模な軍備拡張計画を打ち出し、打倒中朝プランを秘密裏に発令したのである。

 高山が宰政官邸に招聘(しょうへい)されたのは、師走である。官邸では磨生と大木国防大臣が待っていた。大木は、空軍大将であった。強硬な反共主義者であり、且つ自由主義者でもある。学者みたいな風貌(ふうぼう)をしている。対中国・北朝鮮軍については、もっとも詳しい第一人者であった。
 大木は厳(おごそ)かに喋った。
「君に頼みたいことはほかでもない、北朝鮮の核施設を破壊してもらいたい、ということだ」
 高山は暫しの沈黙(ちんもく)後、
「一人でですか?」
 と問質(といただ)した。
「無論一人ではない」
 磨生が応答すると、久坂がドアーを開けて入室してきた。
「犯罪防止官を、君の部下につけよう」
「何体?」
「何体でもいい。君の望み通りにしよう」
 
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