ウォーターマン
七月、北朝鮮の高山より久坂の許に届いた申報(しんぽう)は、久坂の予想通りだった。久坂は治安の長である公安大臣として、決断せねばならない 。
七夕の薄暮(はくぼ)、久坂は美子と一緒に笙子を居間に誘(いざな)った。沈痛な面持ちで高山から郵送されてきた、林の身分を証明する書類のコピーを卓上に投げた。
「何これ」
「中身を読んでごらん」
笙子は用紙を手に取ると、一気に読破した。
「これは」
「北朝鮮に居る部下が送ってきた」
「本当なの?」
久坂は頭(こうべ)を垂(た)れた。
「あいつは筋金入りの独裁主義者だ。お前に近付いたのも、お前が私の娘だからだ。林、否全は中国人ではなく、労働党員で、スパイなんだ。尤もあいつの曾祖父(そうそふ)が中国人らしいがな」
笙子は惑乱(わくらん)していた。瞳子(どうし)には、うっすらと涙(るい)珠(しゅ)が浮かんでいる。
「お父さんは、全を逮捕せねばならない」
笙子は長い黙視(もくし)の後、
「何かの間違いだわ」
と呟(つぶや)いた。
「今から会ってくる」
笙子は、玄関へ向かった。
「待ちなさい」
久坂は笙子の行く手を阻(はば)んだ。
「どいてよ!」
「落ち着きなさい笙子!」
美子が珍しく大声を上げたが、笙子は歩を休めない。
「待つんだ笙子」
久坂は笙子の右腕を把捉(はそく)した。
七夕の薄暮(はくぼ)、久坂は美子と一緒に笙子を居間に誘(いざな)った。沈痛な面持ちで高山から郵送されてきた、林の身分を証明する書類のコピーを卓上に投げた。
「何これ」
「中身を読んでごらん」
笙子は用紙を手に取ると、一気に読破した。
「これは」
「北朝鮮に居る部下が送ってきた」
「本当なの?」
久坂は頭(こうべ)を垂(た)れた。
「あいつは筋金入りの独裁主義者だ。お前に近付いたのも、お前が私の娘だからだ。林、否全は中国人ではなく、労働党員で、スパイなんだ。尤もあいつの曾祖父(そうそふ)が中国人らしいがな」
笙子は惑乱(わくらん)していた。瞳子(どうし)には、うっすらと涙(るい)珠(しゅ)が浮かんでいる。
「お父さんは、全を逮捕せねばならない」
笙子は長い黙視(もくし)の後、
「何かの間違いだわ」
と呟(つぶや)いた。
「今から会ってくる」
笙子は、玄関へ向かった。
「待ちなさい」
久坂は笙子の行く手を阻(はば)んだ。
「どいてよ!」
「落ち着きなさい笙子!」
美子が珍しく大声を上げたが、笙子は歩を休めない。
「待つんだ笙子」
久坂は笙子の右腕を把捉(はそく)した。