ウォーターマン
「もし中国が攻撃してきたら。中国と北朝鮮は、同盟関係にある」
「中国はそれ程馬鹿ではない。併しそうなったら、第三次世界大戦になる」
 久坂は口(こう)気(き)を荒げた。
「一か八かか?」
 磨生は失笑すると、
「安心しろ。そんなことにはならない」
 と断言した。
「何故そう言える?」
「中国は過剰人口を抱え、経済状態は貧窮している。こっちが攻め込まない限り、アメリカを敵に回してまでも、侵攻してこない。できっこない」
「併し、北朝鮮だけならば分からないぞ」
「無論そうだ。北朝鮮だけならば、恐るるに足り無い」
「ベトナム戦争を忘れたか」
「アフガニスタン戦争は?」
 磨生は肩をすぼめ、
「君は侵略戦争と国民保護の為の戦争を一緒くたに考えているようだが、我々は米国や旧ソ連の様な侵略国ではない。北朝鮮に不当に強制連行され、今なお拉致されている被害者を救出しに行くのだ。拉致問題は解決済みと、寝言ばかり言っている犯罪国家から、我が同胞を取り戻すのは当然のことだ!」
 と稍(やや)激情して、久坂に背を向けてしまった。
「日米同盟ある限り中国は日本に攻めてこれないし、高山達が北朝鮮の核施設を計画通り全壊すれば、核兵器を持たぬ空きっ腹を抱えた悪の帝国など、例え中国が朝鮮戦争当時の如く参戦してきても、必ず日本は撃滅する」
 磨生は、
(久坂が土壇場の今になって、このようなことを言するのは、一人娘を失って気弱になっているのだ)
 と考(こう)定(てい)した。
「まあ見ていてくれ。君が発案した北朝鮮核施設殲滅(せんめつ)計画ではないか。私は大学以来君の能力を認めているし、君を友人だと思っている。君の作戦に間違いはない」
 磨生は久坂の左肩を、撫でるように叩いた。久坂は笙子を亡くしてから屡(しばしば)みせる悄然(しょうぜん)たる無表情で、黙想していた。やがて引き締まった眉間を、緩和させた。
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