ウォーターマン
 そして、
「もう何も言わん」
 と冷めた顔つきで言意(げんい)し、    
「お互い長くなった」
 と言笑(げんしょう)して、間もなく官邸を辞していった。

 八月七日午前四時、高山は配下の五十体の犯罪防止官とともに、ピョンヤン郊外の北朝鮮最大の核基地に進入せんとしていた。
 北朝鮮国民は海外からの食料援助に依存している。北朝鮮政府は、人民の台所事情などお構いなしに、嘗(かつ)てのソ連の如く、国民経済能力を遙かに越えた軍備増強政策を推進している。国内には首都ピョンヤン郊外と、南部のケーソンに主として日本と韓国、台湾までもを標的にした核基地があった。
 高山は自らはピョンヤン郊外の基地を担当し、ケーソンは、部下の犯罪防止官長ヘイゾウに五十体を付与(ふよ)して担当させていた。無論最高指揮官は高山であり、江見作戦本部長から全権を委任されている。高山の作戦成功の報に呼応して、日本軍が日本海より出撃し、ピョンヤンとケーソンを爆撃する。高山達は、北朝鮮国内各地に拉致されている日本人救出に向かう手順になっていた。
 靄が微(かす)かに、夜明けの気配を漂わせ始めている。午前四時ジャスト、高山は死士五十体に、
「GO」
 のサインを下すと、機関銃を握りしめ、機敏に争闘を開始した。

 この日、国防省地下に設置された大本営には、磨生と江見作戦本部長、陸海空軍参謀長、久坂副宰政、大木国防相、沢井国際相、三浦情報長官が参集していた。皆昨夜は仮眠か徹夜状態で、口数も少々としている。誰もが午前四時を緊迫した気(き)海(かい)の中で迎え、現地からの一報をじっと切望(せつぼう)していた。
 久坂は時折コーヒーを啜(すす)りつつ、
(まだか)
 と焦慮(しょうりょ)している。

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