ウォーターマン
 高山達一番隊は、激闘の渦中(かちゅう)にあった。ピョンヤン基地の警護は尋常ではなく、強者揃いの犯罪防止官達も、一人、又一人と倒されていく。
 襲撃の号砲から約一時間後、鉄壁の防御壁を打ち破って、高山とハヤトという隊員が、司令室前に辿り着いた。
「隊長!」
「よし」
 高山は敵を仕留め、入室した。
 白衣を纏(まと)った科学者らしき男女が、諸手(もろて)を挙げて降参している。高山は朝鮮語がプログラムされている、一番乗りを果たしたハヤトに、核自爆装置の在処(ありか)を訊問(じんもん)させた。
 彼等は沈黙している。
「早く言え。言わんと皆殺しだぞ!」
 ハヤトは、銃口を女の頬にくっつけた。
「分かった」
 白髪の士が力無く応え、
「これだ」
 と青いスウィッチを指し示した。
「これを押せば、この基地の管轄内にある核兵器は全滅するんだな?」
「そうだ」
「隊長。これだそうです」
「これか」
 高山は、半信半疑である。
「よし。こいつに押させろ」
「了解」
 ハヤトは、男にマシンガンを向け、
「押せ」
 と促した。
「私がか」
 責任者らしき者は已(や)む無く、といった体でボタンの上に指先をもっていった。躊躇(ためら)っている。
「早く押せ」
 室内を耐え難い緊迫感が、覆蔽(ふくへい)している。
「押せぬなら、私がやる」
 ハヤトは初老の男性を退けると、高山に同意を求めた。高山は、
「やれ」
 と短く言い放った。
 ハヤトは沈着(ちんちゃく)に、そのスウィッチを押したのである。
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