ウォーターマン
 高山達は二人一組となって、邦人奪取に従事している。高山はシュンスケとペアを組んでいた。中学生の時に新潟の海岸で北朝鮮の秘密工作員に身柄を拘束され、諜報員養成機関で日本語を教えている五十五歳の横田恵子を救命することになっている。
 横田には事前に、計略を報知してあった。横田の住居は強制拉致から、ずっと北朝鮮国家保安部の監視下にある。横田には単独の外出は認可されず、稀に許可された折には、必ず数人の保安部局員が付き添っているのが常であった。
(今日は、自宅で待機している筈)
 高山とシュンスケは、早朝のピョンヤンの街頭を、
(横田さんが待ち侘(わ)びているであろう)
 と思量(しりょう)しつつ、急行していく。
 やがて二人は市の外れにある、何の変哲もない高層アパートの近辺に至った。アパートの入り口には、いつもの何倍もの警察官が屯(たむろ)している。
(先手を打たれたか)
 高山はデカの勘で、そう悟了(ごりょう)した。
「一寸(ちょっと)様子を見よう」
 高山の小声に、シュンスケも危険予知プログラムを作動させた。高山の後ろ(と言っても高山の体躯(たいく)は把握(はあく)できないが)より、アパートを熟視(じゅくし)した。
 警官達は、四方に間断無く警戒網(けいかいもう)が張られている。
(他の場所もこうなのだろうか)
 高山は焦心(しょうしん)に身悶えしていた。

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