ウォーターマン
創世党
「ただいま」
 友安は自宅であるアパートに、帰ってきた。刻限は、午前零時前である。
「お帰りなさい」
 友安は目鼻立ちがくっきりしている。長身でがっしりとした体格であるが、口許(くちもと)が猿の如く膨れており、それが一種の愛嬌(あいきょう)になっていた。夫人の恵子は友安に似合わぬ佳人(かじん)で、三十六とは思えなかった。
「ああ」
 友安が服を着替えようと脱衣場(だついじょう)へ向かうと、恵子は御数をオーブンレンジにかけて、夜ご飯の準備にかかっている。恵子は昼間パン屋にパート出勤しているが、友安がどんなに遅くなろうと、帰宅する限り起きて待ってくれている。今時珍しい、貞淑(ていしゅく)な妻だった。
 友安と恵子は、恵子の夫の失踪(しっそう)事件を契機に懇意(こんい)となり、結ばれていた。子供は恵子の連れ子正志(まさし)一人である。恵子の前夫は友安の先輩で、柔道は七段、射撃の腕前は、オリンピックにも出場した経験がある一流のデカだった。
 その高山警部は、去年失跡(しっせき)している。友安は高山の行方を捜索(そうさく)したが、不明の儘今日に及んでいる。
「又罪を犯そうとした人が、殺されたのね」
 恵子は御飯を装(よそ)い、茶碗を友安に渡した。
「うん。ニュースでやってたのか?」
「ええ」
 友安は豚カツを頬張(ほおば)った。
「一体誰なのかしら」
「バットマンか仮面ライダーにでもなったつもりなんだろう」
 友安は忌々(いまいま)しげである。
「でも、何だかそのバットマンは、人気があるみたいよ」
「何で?」
「だって警察は未然に市民を護ってくれないけど、どこの誰だか知らない人は、多くの人を、犯罪の魔の手から救けてくれるんだもの」
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