僕の机のスミの恋人
――――ぱしゃ。
水の弾く音。雨上がりの帰り道を実と歩いていた。
「あめ、あめ、あめがあがったよぉ〜」
「なんだその歌(?)は」
この梅雨時に、そんなはしゃいでいられるのはお前くらいだよ。
「僕はお兄ちゃんが居れば、オールデイズハッピーなんだよ〜」
「お前がまぶしいよ……」
「るんるんるん〜」
同じ水溜まりを踏んでも、実の方が楽しそうな音がする。俺にいたってはほとんど避けて歩いてるわけだが、実は自ら水溜まりに飛び込んで俺を追い抜いていった。
それすら気づかず、無邪気にはしゃぐ実は、姿形も中身もそのまま汚れなき幼い頃のさくらんぼだった。
「お兄ちゃん遅いよ!」
「……おう」
水溜まりの上でぴょんぴょん跳ねて俺を手招きする。今まで一人っ子だった俺には知るよしもなかった兄妹のいる生活は、とてもこそばゆい。
やっと追いつき実と並ぶ。今度は通り過ぎないようにしっかり俺の腕にしがみついてくる。
こうなったら絶対にはなしてくれない。逃げれば逃げるほど余計しつこくくっついてくる。
だが、実のおかげで今年の梅雨は、曇った心を突き破るように日差しがさしていた。