上司に恋しちゃいました
「課長……あの……」



島田君が気まずそうに目を泳がせていると、鬼の王子はいつもと全く変わらない口調で言った。


「発注書出来上がったんだろ? 早く見せろ」

島田君は鬼の王子の態度に安心して、すぐに仕事に気持ちを切り替えた。


「はい! こちらです」


鬼の王子を先導するように暗い廊下を歩いていく。



鬼の王子は眉一つ変えない冷静な顔で島田君の後についていこうとして、ふと足が止まった。



ゆっくりと振り返り、優しい口調で「深川、気をつけて帰れよ」と言った。



涙が出そうになった。



嬉しかったのではない。



悲しかった。



あたしと島田君がキスしている現場を見ても態度を変えない鬼の王子。



それはまるで……あたしに対して興味などないと言われているようで……。

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