上司に恋しちゃいました
砂時計

「旅行に行かないか?」


ベッドから起き上がり、帰り支度をするあたしの背中に向かって、投げかけられた言葉。


「旅行、ですか?」


振り向くと、鬼の王子はベッドに横になりながら、無邪気な笑顔を見せていた。


「そう。今度の週末、仙台に出張が入ったんだ。

金曜の夜に軽い接待があって、そのままビジネスホテルに泊まることになってるから、土曜に仙台観光して日曜に帰れば、問題ないだろ?」


旅費は全部俺が払うからさ、と鬼の王子は付け足した。


旅行……。


あたし達のことを誰も知らない所に行って、一日中一緒にいられるのはとても素敵なことに思えた。


もとから出張が入っているなら、奥さんに嘘がつきやすいし、バレる心配も少ない。


あたしはふた呼吸置いてから、「行きます」と返事をした。


鬼の王子は嬉しそうに頬を緩めると、あたしの手を引っ張って抱き寄せた。


ベッドに横になりながら、鬼の王子の胸に耳を寄せる。


本当は帰りたくなんてない。


このまま一緒にいたい。


できることなら、ずっと一緒に。


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