上司に恋しちゃいました
松島へ行き、遊覧船に乗る。


潮の匂いと、趣のある松の木が、とてもしっくりと心に入った。


日本三景といわれる松島の景色は、絢爛(けんらん)豪華で圧倒されるような類(たぐい)のものではなかった。


優雅でしっとりとした、わびさびの世界だ。


余計な装飾はいらない。


素のまま、ありのままを受け入れて、その美を最大限に褒め称えている、そんな気がした。


潮気を含んだ風が髪を揺らす。


船の欄干(らんかん)に腕をかけながら、鬼の王子はじっと松の木を見つめていた。


横顔がとても美しいと思った。


あまりにも整ったその顔は、今まで出会ったどんな男の人よりもかっこよかった。


思わずシャッターを押すと、カメラに気付いた鬼の王子が、少し困ったような表情で振り向いた。


「すみません、写真撮られるの、嫌いですか?」


「ひとりで写るのはね。昔よく盗撮されて、それを勝手に売られたりしたから」


その言葉は、鬼の王子が昔からどれほど人気があったのか窺(うかが)い知るのに、十分な表現だった。


気の毒ではあるけれど、身近にこんなかっこいい人がいたら、写真に収めたい気持ちもわからないでもない。



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