上司に恋しちゃいました
遊覧船に乗った後、ゆっくりとした足取りで仏閣を歩いていた。


緑の匂い、土の匂い。木々の間からこぼれるように降り注ぐ柔らかな日差し。


こんなに穏やかな気持ちになれたのは久しぶりだったのに、どうしても暗く重たい鉛のような影は、あたしから離れてはくれなかった。


あたしはその影を見ないように細心の注意を払っていたけれど、注意をし続けていることが実は、常に縛られていることに気付いていなかった。


 ふと、梅の木に囲まれている墓碑に足を止める。


小太郎、紅蓮尼にと名前が並んでいて、その下に比翼塚と彫られてあった。

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