上司に恋しちゃいました
ここが……、と思わず心の声が唇からこぼれそうになる。


すると、足を止めたあたしの視線の先に比翼塚を発見した鬼の王子が、驚くような記憶力で墓碑が建てられた悲恋の話を語り出した。



「昔、観音様の申し子だと噂されるほど、賢く容姿も優れていた小太郎は、商人の娘と結婚の約束をしたそうだ。

でも、小太郎は死んでしまっていて、それを知らずに嫁いできた娘は、夫妻に帰るように勧められたけれど、結局嫁として松島に残った。

夫妻に尽くし、彼らが亡くなった後、娘は髪をおろして紅蓮尼となった。

ふたりの墓碑は別々の場所にあったけれど、六四〇余年を過ぎても一緒になれないふたりを、せめて同じ墓碑に並べてあげたいと、紅蓮尼と小太郎の比翼塚が建てられたそうだ」


感心し、目を見張るあたしに、「……って観光雑誌に書いてあった」とまるで昔から知っていたかのように話した鬼の王子が、照れ臭そうに手の内を明かした。


実はあたしもその部分を読んでいたのだけれど、ここまで詳細に覚えていた鬼の王子はすごいと思った。


一読しただけで、ほとんど完璧にストーリーを言えちゃうなんて。



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