上司に恋しちゃいました
予約していた旅館に濡れた身体のまま行くと、女将さんが目を丸めて驚いていた。


鬼の王子のジャケットを借りて、ふてくされているあたしの横で、鬼の王子があたしの身に降りかかった不幸について説明すると、女将さんもこらえきれずに笑い出した。


……もういいよ。存分に笑ってちょうだい。


変に同情される方が悲しくなる。

 
露天風呂を備えた客室を予約していたあたし達は、すぐに温泉に入った。


旅館名物だという露天風呂は、檜(ひのき)の香が心地よく、竹藪や、盆栽ほどの小さな松の木が植えられていた。


部屋からも一望できる海の景色がふたりだけのもののようで、とても贅沢な気持ちになる。



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