上司に恋しちゃいました
「そんなこと気にするな」


「でも……」


せっかく泊まりに来たのにできないなんて……。


あたしは何のために鬼の王子と旅行に来たのか。


あたしは鬼の王子と一緒にいられるだけで幸せだけど、鬼の王子は違う。


あたしの存在意義がなくなってしまう。


「おいおい、俺を鬼畜(きちく)かなんかだと誤解しないでくれよ」


「違うんですか?」


「おいっ!」


鬼の王子は怒りながら笑った。


熱で朦朧(もうろう)としているあたしに、鬼の王子は優しい表情でずっと手を握ってくれていた。


温かくて、とても安心する。


身体を重ねなくても、側にいていいんだと思わせてくれる。


「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」


ふとこぼれた疑問に、鬼の王子は耳を赤く染め、て恥ずかしそうにぷいと横を向いた。


「言わせるな」


……言ってくれないとわからないのに。



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