上司に恋しちゃいました
鬼の王子がいつもより優しかったからか、熱で頭が回らなかったのか、おそらくどちらのせいもあると思うけれど、普段なら恐くて聞けないことなのに、頭に浮かんだ言葉そのままを口にしていた。


「どうして、あたしだったんですか?」


鬼の王子が目を見張る。


短い言葉でも正確に意味を読み取ってくれたようで、鬼の王子はひと呼吸置いてから話し出した。


「どうしてだろな。いつから、なんて聞かれてもわからないんだ。こういう答えって女の子はずるいって思うんだろ?
 
でも仕方ない。本当にわからないんだ。

初めてキスした時かもしれないし、初めて結ばれた日かもしれない。

もしかしたら少しずつ惹かれていったのかもしれないし、初めて会った日かもしれない。

ああでも、初めて会った日のことはよく覚えてる。

会った瞬間から目が離せなくなった」


……それは、初めて聞く話で、とても意外だった。


初めて会った日のことを思い出してみた。


女子社員が騒ぐ中、あたしはとても冷静に鬼の王子を見ていた。


とても綺麗な顔をしているけれど、眉間に皺を寄せて、一人ひとり、まるで値踏みするように視線を流すその目を見て、恐いと思った。


できればあまり関わりたくないなと思った。

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