上司に恋しちゃいました
繋いでいた手を解く。


鬼の王子は深く眠っていて気付かない。


あたしは独りになった手を膝の上に置いた。


その手で、服をぎゅっとつかむ。


唇を固く閉じ、大きく深呼吸をして目を瞑った。


……元に、戻るだけ。


あたしは再び、自らの手で十字架を背負う。


目を開けると、窓に薄く自分の顔が映った。


ただ見つめているだけなのに、まるであたし自身を睨みつけるような瞳。


夢のような時間はさらさらと流れて、やがて消える。



白く輝く砂の粒子のように。

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