上司に恋しちゃいました
「奥さんの写真とかないんですかぁ?」


「見たぁ~い!」


盛り上がりを見せる鬼の王子のデスク周辺で、当の本人だけが焦った顔をして、あたしの方をチラチラと見ていた。


その視線に気付いた時、無性に腹が立った。


あたしを気にして喋らない鬼の王子のちっぽけな優しさが、余計にあたしを惨めにさせた。


あたしのくだらないプライドが目を覚ます。


聞いていないふりをして、仕事が忙しい様子を装った。


奥さんに嫉妬しているだなんて、死んでも鬼の王子には悟られたくない。


次から次へと飛んでくる質問に、曖昧に返事を濁す鬼の王子に助け舟を出すかのように、部長までもがその話に加わった。


「鬼木の嫁はなぁ、小柄で細くて、愛嬌の良い可愛らしい子だぞ」



部長の言葉に皆がわっと盛り上がった。
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