上司に恋しちゃいました
……聞かなければ良かった。


陳腐なプライドなんか捨てて、やっぱりあの時トイレに逃げ込めば良かった。


両手が震えていた。仕事を続けようにも、頭に何も入ってこない。


部長の言葉が、何度も頭の中で反芻(はんすう)される。


小柄で、愛嬌の良い可愛らしい子。


家柄も良くて、お嬢様。


そんなお嫁さんに、夢中の鬼の王子。


結婚式。


あたしの知らない鬼の王子の過去。


あたしじゃない女の子が純白のウェディングドレスを纏いながら、鬼の王子の優しい眼差しを受けて誓いの言葉を述べる。


そんな様子を思い浮かべて、愕然とした。
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