上司に恋しちゃいました
一時間後、仕事が全く捗(はかど)らなくて、気分転換の為にトイレに行った。


オフィスに戻る廊下で、鬼の王子と鉢合わせになった。


今は顔も見たくないのに……。


俯いて、軽く会釈だけして横を通り過ぎようとすると、鬼の王子に呼び止められた。


「なんですか?」


自然と言葉がきつくなる。


歯を食いしばり、爪の痕がつくくらい、きつく握りこぶしを作った。


「あのさ、さっきの部長の言葉だけど……」


ああ、そうか。この鉢合わせは偶然じゃない。


鬼の王子はあたしに『いい訳』するために来たんだ。


都合良く抱ける浮気相手を手放したくないから。


偽りの優しさを見せて、偽りの言葉を囁きかければ、バカな女は喜んで抱かれると思っているんでしょ。


バカにしないでよ。そんなことくらい分かってるんだから。


分かっているけど、別れられない。


それくらいあなたが好きだってことは、絶対にバレたくない。




……あたしは誰よりも、バカな女だ。
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