上司に恋しちゃいました
辞表と真実
* * *
あの日を境に、あたし達の関係が少しずつギクシャクし始めた。
鬼の王子に抱かれている時も、どこか上の空で、あんなに激しく求めあっていたのに、ベッドの上での営みがなんだか滑稽(こっけい)に思えてきた。
こんなことをするために、鬼の王子は可愛らしい奥さんを裏切っている。
愛がないと分かっているのに、大きく足を開いて、言われるがままに体勢を変えるあたしも、愚かだ。
そう思っているのに、鬼の王子から連絡がくれば、バカの一つ覚えみたいに飛んでいく。
くだらない。
それなのに、キスをされると、とろけるような甘い気持ちになって、鬼の王子に見つめられると、バカらしいと思っていたことすらどうでも良くなるくらい頭が真っ白になる。
冷めきっていた気持ちもどこへやら、情緒不安定な女のように、突然鬼の王子の背中にしがみ付いて声をあげた。
「好き」の一言が言えないから、代わりに悲鳴のような声で啼く。
甘くも可愛くもない声をあげても、鬼の王子は相変わらずあたしを愛おしそうに抱きしめた。