上司に恋しちゃいました
それよりも、鬼の王子の利き手が左手だったことに、今さら気付いた。


細くて長い指、関節が少し骨ばっていて、血管が浮き出ている男らしい手。


こんな手で身体を触られたらと、淫らな想像をして頭を振った。


左手の薬指には今日も、指輪がはめられていた。


利き手が活躍する度に主張する指輪。


その存在が……憎い。


そこまで考えて、あたしはハッと我に返った。



あたしは何を考えていたんだろう。



憎いだなんて……まるで指輪に嫉妬しているみたいじゃない。



このままじゃいけない。


あんな奴にドキドキするなんて、欲求不満なのかもしれない。


仕事と家の往復で、女としての楽しみから遠ざかっていた。


今日は仕事を早く終わらせて、拓也の家に行こう。


合い鍵も持っているし、久々に拓也に会って、拓也に抱かれたら、きっと鬼の王子のことなんて忘れられる。


あたしは両手でパンっと頬を叩き、気合を入れて仕事に取り掛かった。



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