上司に恋しちゃいました
 えぇ!?


思わず眉間に皺が寄り、茫然とお母さんが出て行った扉を見つめる。


今まで褒められたことなんてなかったけど、まさか娘の晴れの姿までもひと言も触れ
ないなんて……。


「お母さんらしいな……」と、ひとり笑ってしまった。


お母さんと入れ違いで担当のウェディングプランナーの辻さんが入ってきた。


礼儀正しく、いつもニコニコしている辻さん。


結婚式の打ち合わせから今まで、とても親身になってくれて、絶大な信頼を寄せている。


「わあ! 綺麗。お姫様みたいですね」


短期間ではあるけれど、何度も打ち合わせを重ね、多くの時間を共に過ごしてきたので、お世辞かそうじゃないかの区別はつくようになっていた。


ため息を漏らすようなその言葉が、心から発せられたものだとわかり、恥ずかしくてまつ毛を伏せた。


メイクさんの技術によって、いつもより長くなったまつ毛が頬に影をつける。


その様子に辻さんは再び、わあ、と感心してため息をついた。
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