上司に恋しちゃいました
そして辻さんは自分の結婚式のように嬉しそうな表情で、ベールやリングピローの準備を始めた。


その横顔を見ながら、気になっていたことを質問してみた。


「あの、あたしの両親の様子はどうですか?」

すると辻さんの手が一瞬止まった。

「とても……緊張しているようですよ」


ああ、やっぱり……。


もしもずっと、あんな無愛想な顔で新郎側の親族達に挨拶をしていたら……。


想像するだけで、ぞっとした。


「そうですか……」


肩を落とすあたしに、辻さんは慌ててフォローを入れた。


「緊張して固くなるのは、よくあることですから」


気落ちするあたしを心配してくれる辻さんの気持ちが嬉しくて、あたしはそっと微笑んだ。


「ほら、花嫁は笑っていないと。美月さんの笑った顔は本当に綺麗ですよ」


ほのぼのとした辻さんの笑顔に癒される。


そうだ、両親が笑わないんだから、あたしが笑っていないと。
 

最高の笑顔で、最高の日にしよう。


鏡に映る自分を見つめ、柔らかく微笑んだ。
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